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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)4556号・昭26年(ワ)5980号 判決

被告倉敷紡績株式会社は、原告に対し被告倉敷紡績株式会社昭和二十四年度資本増加の際の株金払込取扱銀行たる富士信託銀行株式会社(東京支店)発行にかかる原告宛株式申込金領収証四十通(但し、この番号は、第七六五一六号ないし第七六五五〇号及び第九二一五一号ないし第九二一五五号である。)と引きかえに、被告倉敷紡績株式会社の百株券四十枚(但し、名義人は、原告であつてその番号は、よ巳第五三四一六号ないし同第五三四五五号である。)を引き渡せ。

原告の被告倉敷紡績株式会社に対するその余の請求を棄却する。

原告の被告赤羽保正に対する本訴請求を棄却する。

反訴原告と反訴被告との関係において反訴外倉敷紡績株式会社株式四千株(但し、名義人は反訴被告であつて、株券の番号は、よ巳第五三四一六号ないし同第五三四五五号である。)について反訴原告が株主であることを確認する。

訴訟費用は、全部(反訴共)原告(兼反訴被告)の負担とする。

この判決は、主文第一項に限り、仮りに執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は、本訴につき「1原告と被告等との関係において被告会社の株式四千株(但し、その株券は、百株券四十枚であつて番号は、よ巳第五三四一六号乃至同第五三四五五号、名義人は原告である。以下同じ。)につき原告が株主であることを確認する。2被告赤羽保正は、原告に対し被告会社の株金払込取扱銀行たる富士信託銀行株式会社(東京支店)発行にかかる原告宛第二新株式申込証拠金領収証四十通(但し、この番号は第七六五一六号乃至第七六五五〇号、第九二一五一号乃至第九二一五五号である。以下同じ。)を引き渡せ。3被告会社は、原告に対し第一項の株式の株券を引き渡せ。4訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決及び給付を求める部分につき仮執行の宣言を求め、反訴につき「反訴請求を棄却する。」との判決を求め、本訴の請求原因及び反訴請求の反駁として、「

一  原告は、昭和二十四年七月十五日被告会社の同年四月二十四日株主総会決議による増資新株の引受申込をなし、払込期日において株金の払込に充当された株金額と同額の申込金の払込をした上株金払込の取扱銀行たる富士信託銀行株式会社東京支店から請求の趣旨第二項の新株式申込証拠金領収証の発行をうけ、その後、同年九月一日被告会社によつてなされた資本増加の登記により請求の趣旨第一項の株式の株主となつたものである。

二  原告の兄木山英一は、昭和二十四年七月十九日右領収証及び原告の印章を原告のために保管中原告の意思にあらずしてこれを訴外島村鉄也に交付した。訴外島村は、右印章によつて株式名義書換のための白紙委任状を作成した上これを右新株式申込証拠金領収証に添附し、その後被告赤羽保正から金員借用に際し担保の目的を以て右株式の引受による権利を被告赤羽保正に譲渡するため右白紙委任状の添附された新株式申込証拠金領収証を同被告に引き渡した結果、該領収証は被告赤羽が現に所持するところである。

三  右新株式申込証拠金領収証が原告の支配から離れた事情が右の通りである以上、原告は、右新株の引受による権利をうしなうものでないから、その後なされた資本増加の登記により当然に株主たる地位を取得したものであるにもかかわらず、被告赤羽は、原告に対抗しうるなんらの権限なくして右領収証を所持し、被告会社は、原告に対し右株式の株券たる主文第二項の株券の引渡をなさずして原告が株主たることを争うから、原告は、株主たる地位にもとずいて本訴各請求をするしだいである。

四  仮りに、被告赤羽保正はその主張の事由によつて本件株式の引受による権利を取得したものであるとしても、同被告は、昭和二十四年九月中訴外島村鉄也との間において前記貸金債権担保のため同訴外人所有の東京都中央区日本橋江戸橋一丁目七番地の六所在の建物につき抵当権設定をなすべき旨約定し、該抵当権設定がなされたときは、原告に本件株式に関する権利を返還し、右株式申込証拠金領収証を引き渡すべき旨原告の為にする特約を結んだのであるが、訴外島村は右契約にもとずく抵当権の設定をなし、昭和二十五年三月一日その登記をしたので原告は、同年八月十日被告赤羽保正に対し右特約による利益をうけるべき旨いわゆる受益の意思表示をした。

右株式は、これによりふたたび原告に帰属するに至つた。したがつて原告はやはり株主たる地位を有する。

五  したがつて、反訴請求は、理由がない。

六  被告赤羽が取得した本件新株申込金領収証に添附された白紙委任状に押捺された印影は、会社届出の原告の印鑑と異るから、改正前の商法第二百二十九条第二項の規定の趣旨により、被告赤羽は、本件株式又は引受による権利を取得することができないものである。

」と述べた。

被告会社代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、その事実上及び法律上の主張として、「

一  請求原因一の事実は全部認めるけれども、その余の事実はすべて知らない。

二  被告会社としては、株主名簿において原告がその主張の株式につき株主として記載されているから、今に至るまで一回もその株主たることを争つたことはない。即ち原告と被告会社との間には原告がその主張の株式の株主たることにつきいささかも争ありといえないから株主たることの確認を求める請求は理由がない。

三  被告会社が原告に対し株券の引渡を拒んでいる理由は次の通りである。即ち、被告会社は昭和二十四年十一月二十一日以降原告名義を以て原告主張の株券を作成し、原告に引き渡すべく準備しているものであるけれども、原告と被告会社との間には、株券発行の為にする株券の引渡は株式申込金領収証と引換でなければこれをしない旨の特約があるから、該領収証の提供のない株券の引渡請求には応ずることができない。

」と述べた。

被告赤羽保正の代理人は、本訴につき主文第三項同旨、反訴につき主文第四、五項同旨の判決を求め、本訴の答弁及び反訴の請求原因として、「

一  原告の請求原因の一、二の事実は、訴外木山英一から訴外島村鉄也に対する本件白紙委任状附株式申込金領収証の引渡が原告の意思にあらずしてなされたとの点を除いて全部認める。右白紙委任状の作成、該白紙委任状附本件領収証の引渡は、訴外木山の訴外島村に対するいわゆる株式貸付として為されたもので原告の意思にもとずくものである。

二  右事情を詳述すれば、次の通りである。即ち、被告赤羽は、昭和二十四年七月二十一日訴外島村に対し金三十五万円を消費貸借により貸しつけ、その担保として、白紙委任状附で本件株式の引受による権利の譲渡をうけ、更に同年九月二十一日金十八万円の貸増をなし、増し担保として同訴外人との間に原告主張の建物につき抵当権設定の予約をなし、その後原告主張の通り抵当権の設定をうけ、その登記をしたものである。したがつて、請求原因四の原告の為に本件株式の返還及び株券引渡の特約をしたとの事実は否認する。仮りに訴外木山英一のした白紙委任状附株式申込証拠金領収証の引渡による処分が無限であつたとしても、訴外木山英一は本件株式申込金領収証及び原告の印章を権限にもとずいて保管していたものであるから、訴外島村鉄也において訴外木山英一が原告を代理して本件株式の引受による権利を処分する権限ありと信ずるにつき正当の事由あつたものというべく、訴外木山英一が訴外島村鉄也に対して為した右権利の処分は有効である。したがつて、原告の請求はすべて理由がない。

三  よつて、反訴を以て本件株式につき被告赤羽が株主であることの確認を求める。

」と述べた。

<立証省略>

三、理  由

一  原告と被告会社との関係についてまず判断する。

(一)  原告の請求原因中一の事実は全部当事者間に争がない。被告会社は、その株主名簿に原告をその主張の株式の株主として記載し、処遇上今にいたるまで一回もその株主たることを争つたことがないと主張するところ、原告は、この事実を明かに争わないから、原告においてこれを自白したものとみなす。株券を引き渡さないことは、とりも直さず、株主たることを争うものではないかとの疑がないこともないが、そのわけは後に論定するように株券引渡についての特約にもとずく引渡の拒絶であつて株主たる地位を争うものとはいえない。果して然らば、原告と被告会社との間には原告がその主張の株式の株主たることについて争ありとはいえない。原告の被告会社に対する株主たることの確認を求める請求は理由がない。

(二)  原告が主張するその所有株式の株券として主文第二項の株券が被告会社によつて作成されていることは当事者間に争がない。したがつて、特別の事情のない限り、被告会社は株主たることを認める原告に対し右株券を引き渡すべき義務あるものといわなければならないわけであるが、被告会社においては、株券の発行は株式申込金領収証と引換でなければこれをしない旨の特約があると主張するところ、原告は、これについてなんらの答弁をもしない。即ち原告は右事実を明かに争わないことに帰着するから、これを自白したものとみなされるべきである。しかして、このような特約は、株式申込金領収証の引渡による権利の譲渡が当事者間において有効なものとして認められている今日、極めて合理的なものであつてこれを有効に解すべきところ、株式申込金領収証と引換でなければ株券を引き渡さないということは、本訴において原告の請求を全面的に拒否しうる事由ではない。もし、原告から株式申込金領収証を提供して株券引渡の請求があつた場合にはこれを拒むことができないのである。原告の請求はこの限度において理由があることとなる。

(三)  よつて原告の被告会社に対する各請求中株券の引渡を求める部分を右に理由ありとした限度においてのみ正当として認容し、その余の部分を失当として棄却する。

二  原告と被告赤羽保正との関係について判断する。

(一)  原告の請求原因一の事実は当事者間に争がない。

(二)  証人木山英一、同田中昇一、同島村鉄也及び同小田切武昌の各証言並びに原告斎藤美知及び被告赤羽保正の各本人訊問の結果(各後記措信しない部分を除く。)を綜合して判断すれば、次の事実が認められる。

(イ)  原告は、昭和二十四年七月十三日頃自ら本件株式の申込及び申込金の払込をしたが、払込取扱人たる富士信託銀行株式会社東京支店において領収証用紙不足のため、即時領収証をうけとることができなかつたので、その頃、これが受取方を実兄にあたる訴外木山英一に依頼し、同人は、その頃これをうけとつて保管中であつた。

(ロ)  これよりさき、訴外島村鉄也は、訴外木山に対し金銭の借入を申込んだところ、「金銭はないが原告名義の株式なら貸してもよい。」という返事であつたので、同月上旬頃訴外木山と同居中の原告を訪ねて本件株式に関する権利(当時は申込未了であつた。)を訴外木山から借りうけるについて訴外木山と共に原告の承諾を求めたところ、原告から訴外木山に対し「そんなにいじめないで貸して助けて上げなさい。」との言辞があつたので承諾があつたものと了解して帰つた。

(ハ)  同月十九日頃訴外木山から訴外島村にいわゆる株式の貸付をすることとし、白紙委任状附で本件新株申込金領収証を引き渡した。そこで、島村は、同月二十一日被告赤羽から消費貸借により三十余万円を借りうけるに際し、担保として、本件株式の引受による権利を譲渡し、右白紙委任状附新株申込金領収証を被告赤羽に引き渡した。

という次第である。(1) 原告斎藤美知の供述及び証人木山英一の証言によれば、右株式の貸付は、原告の承諾なくしてなされたものであるというけれども、右供述によれば、原告は、もと木山家に育ち、出でて斎藤家に嫁したものであるとはいえ、原告及び訴外木山の訴外島村との交友は双方の父以来のもので極めて親密であり、訴外木山は、本件株式の貸付以前から訴外島村に金銭の貸付をして同人の喫茶店事業に援助を与えていた事実があり、原告は、当時訴外木山と同居していたのでよく右事実を知つていたものであることが認められるのみならず、原告斎藤美知の供述によれば、原告は、昭和二十四年七月十五、六日頃訴外木山に対し申込金領収証の受取方を依頼しておきながら、同年暮又は翌二十五年一月頃までもその結果を確めることをしなかつたことが認められる。又証人島村鉄也の証言によれば、訴外木山は、訴外島村に対し「妹(原告)がやかましいから早く返してくれ。」と催促することはあつても、原告が承諾していないことを理由として返還を督促したことがないことを認めることができる(この点の証人木山の証言は措信しない。)から、証人木山英一の証言及び原告斎藤美知の証言は、到底真実としてうけとることができないのである。(2) なお、証人木山英一及び同田中昇一の証言中には、貸主となる者の意思を確める為訴外島村が本件領収証を持ち去つたものである旨の供述があるけれども、訴外木山も、同島村も共に株式の取引にはよくなれた者であるから、いやしくも白紙委任状附申込金領収証の引渡をしておいて貸主の意思を確める為というような言辞を交したとは、とうてい、まともにうけとることができない。他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(三)  原告は、白紙委任状に押捺された原告の印鑑が会社届出の印鑑と相違すると主張するけれども、株式又は引受による権利の白紙委任状附譲渡の有効なる為には名義人の意思にもとずいて流通におかれることを要するのみであつて白紙委任状に押捺された印が会社届出の印と同一なることを要するものではない。改正前の商法第二百二十九条第二項の規定は株券の裏書についてのみ特に認められていたものであつて白紙委任状附株式又は引受による権利の譲渡の商慣習について適用せられるべきものではない。この点の原告の主張は採用することができない。

(四)  なお、原告は被告赤羽保正は原告の為に本件株式返還の特約を訴外島村との間に結んだと主張するけれども、この点についての証人木山英一の証言及び原告斎藤美知の供述はともに真実とはうけとれない。甲第三号証の記載は、また、同証作成当時の原告及び訴外木山の訴外島村に対する関係、訴外島村の被告赤羽に対する関係から判断して多分に駈引と歪曲が伴うものというべく、真実を記載するものとはうけとれないのであつて、かかる重要な書類について被告赤羽の承認がなく、原告又は訴外木山においてこの点について被告赤羽に事実を確めた証明のないことこそこの間の事情を物語るものといわなければならない。結局、当裁判所は証人島村鉄也の証言及び被告赤羽保正の本人訊問の結果によつて原告主張の本件株式返還の特約はこれなかりしものと認める。

(五)  従つて、原告の被告赤羽に対する本訴各請求は、すべて理由がないこととなるから、失当としてこれを棄却する。しかし被告(反訴原告)赤羽の原告(反訴被告)に対する株主たる地位の確認を求める反訴請求は、他に特別の主張立証のない限り、理由あることとなるから、正当としてこれを認容する。

三  よつて、訴訟費用の負担につき、原告と被告会社の間においては民事訴訟法第九十二条但書の規定を、原告と被告赤羽の間においては本訴及び反訴とも同法第八十九条の規定を、なお、原告の被告会社に対する請求中認容した部分の仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項の規定を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小川善吉 岡田辰雄 川上泉)

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